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ペットを飼う
責任

人生をともに歩む
パートナーとして
エキゾチックペットのリアルな世界
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ペットを飼う責任

人生をともに歩むパートナーとして
目次
ペットを飼うということは、一生のパートナーとしてその命に責任を持つということです。幼く愛らしい期間は短く、あっという間に大きくなり、多くの動物が私たち人間より早く老いて、寿命を迎えます。その一生のすべてにおいて、ペットは飼い主だけが頼りです。
 
ペットとして一般的な犬猫でも、多頭飼育崩壊や飼い主による動物愛護センター等への持ち込みなどが問題になっています。家畜化の歴史が浅く、生態も十分にわかっていない野生動物を含むエキゾチックペットでは、犬猫よりも飼い主が責任を果たすことの難易度は上がります。
 
ペットを飼うには様々な費用がかかりますし、世話をする時間も必要です。病気になった時のことを考えておく必要もあるでしょう。寿命が短い動物種もいますが、なかにはとても長く生きる種もいます。ペットを飼い始める前に、検討が必要なポイントにはどのようなことがあるのでしょうか。
ペット飼育される多種多様な動物
  • © Tanya Kusova
    チンチラ
  • © Timur Garifov
    フクロモモンガ
  • © Lois Lewis
    ミーアキャット
  • © Rob Webster / WWF
    スミレコンゴウインコ
  • © Martin Harvey / WWF
    ヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)
  • © Martin Harvey / WWF
    アイゾメヤドクガエル

ペットの飼育にかかる費用
ペットのお金、何に、どれくらいかかる?

ペットを飼育するにあたって、費用を考えることは避けて通れません。飼い主になる以上、購入時だけでなく、その動物が一生を快適に過ごせるよう、環境を整え、体調管理に努める責任があります。ここでは、実際にどのような費用がかかるのか、何に気を付ける必要があるのか、具体的な数字を見てみたいと思います(これは一例にすぎません。実際の金額は動物の種類によっても、飼育環境によっても大きく変わります)。

© Shutterstock / Tilo G / WWF

餌代

ペットの医療保険を提供するアニコムの調査※1によると、年間のフード・おやつ代は、犬猫だと40,000円程度から65,000円程度とされています。エキゾチックペットとして一般的なウサギとフェレットの場合は、それぞれ35,000円、25,000円ほどですが、動物種によって生餌や生肉といった特殊な餌が必要な場合もあり、餌代にも大きな幅が生じます。

エキゾチックペットの中には、ペレットタイプ等の加工された餌に加えて、保管が難しい生きた餌、いわゆる「生餌」が必要な動物が含まれます。例えば、雑食のフトアゴヒゲトカゲやスローロリスは、栄養バランスをとるために、生きたコオロギやミールワームといった生餌を与えます。餌となる昆虫を捕まえることは動物本来の行動をとるというエンリッチメントの意味もあります。こうした生餌は、入手や管理にもノウハウや費用が必要になります。

© Ranjan Ramchandani / WWF

また、肉食のフクロウやカワウソは1日に体重の8~15%の餌を摂取します。フクロウであれば、ネズミやヒヨコ、ウズラなどの生肉を、カワウソには生のカニや魚介類を餌として与える必要があり、餌代は大量購入をする動物園でも1頭当たり年間100,000円以上になります。一般家庭で、こうした餌を用意する場合は、より高額になることでしょう。

© Tina Hurd

特に野生動物の場合、栄養に関する研究が始まったばかりの動物種も多いので、動物園・水族館などでも試行錯誤を重ねています。栄養学的に適切な餌を与えるためには、常に最新情報の把握に努めることが必要です。

医療費

エキゾチックペットも生きものである以上、体調が悪くなったり、怪我したりすることがあります。でも、動物種によっては医療保険に入れないこともあります。さらに珍しい動物では特殊な治療が必要になるケースがあるため、その費用が思いのほかかさむことがあります。前述のアニコムによる調査では、病気や怪我の治療に年間で平均して下記のような費用が発生しているという報告があります。

病気や怪我の治療費(年間)
¥60,430
¥31,848
ウサギ ¥13,465
¥18,280
フェレット ¥7,625
アニコム損害保険株式会社「ペットにかける年間支出調査 2020」より

この結果だけを見るとエキゾチックペットは犬猫ほど治療費が高くならないことが多いともいえます。しかし、エキゾチックペットを診療している動物病院は犬猫ほど数が多くなく、さらに珍しい野生動物の場合は専門医が少ないため遠方の病院に連れて行く交通費がかかったり、ペットの医療保険に加入できなかったりするため多くの費用がかかります。一度に数万~数十万円の治療費がかかることも稀ではありません。そのため、エキゾチックペットの飼育を検討する時は、動物の健康管理に入手時以上の出費がある可能性を念頭においた方がよさそうです。

© Akash Shrestha / WWF-Nepal

飼育用品・光熱費

食費や医療費に加えて、そのペットに適した環境を整えるための出費も必要になります。必要なものは動物種によって異なりますが、動物が安心して過ごせるケージ用の敷材・底砂、トイレシート、爪とぎ板やかじり木など、常備すべき飼育用品は少なくありません。

特に海外原産のエキゾチックペットの場合、その動物の生息環境が日本とはかなり異なるため、飼育のための様々な設備を整える必要があります。例えば、冷涼な高地が原産のチンチラなどの動物の場合は、適切な温度湿度を保つために年中エアコンを使用します。このための電気代が毎月10,000円程度掛かるという飼育者もいます。
逆に多くの爬虫類は寒さに弱く、暖房をつけて適正温度を保つ必要があるほか、湿度が高すぎると皮膚病になりやすく、逆に低すぎると脱皮がうまくできないといった問題につながります。また、フトアゴヒゲトカゲなどの昼行性の爬虫類には骨の成長に必要な紫外線が出るライトを設置します。いずれも飼育用品の購入費用のほか、光熱費も考える必要があります。
さらに自然災害の多い日本の場合、停電や避難が必要になった際にどう対応するのかもあらかじめ考えておく必要があるでしょう。

© André Bärtschi / WWF

ペットの一生
その動物”らしく”生きられるように

ペットを飼うには日常的な餌やりや掃除、運動といったケアを、動物の生涯にわたって十分に与える必要があります。動物と飼い主のみならず、家族や近隣の人々を含む周囲との関係の中でも、動物と人がお互いに安心して暮らせる環境を作らなければなりません。

寿命

まず考えなくてはならないのはペットの寿命です。犬猫の平均寿命は14歳程度というデータがあります。一方で、エキゾチックペットの中で鳥は9.5歳、ウサギは7.9歳、フェレット5.5歳、その他の種類では下のグラフの様に1.4~4歳となっています※2

エキゾチックペットの平均寿命

アニコムホールディングス「家庭どうぶつ白書2021」より

ただし、エキゾチックペットの場合、動物の種類によって寿命はかなり異なります。例えば、同じ鳥でもキンカチョウの寿命は5~7年、メンフクロウは20年程、オウムは大型のものだと40~60年以上生きる種類もいます。カメの場合、ペットとして日本でもよく目にするミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)は長生きだと30~40年、インドホシガメは最長80年と言われています。グラフの平均寿命が短いのは、若くして死亡してしまう個体が多いこと、すなわち飼育の難しさを示すものともいえるでしょう。

🄫認定NPO法人TSUBASA

オウムやカメなど長命の動物の場合、飼い主の病気や怪我、加齢などでやむをえず手放さなくてはならなくなった場合でも、なかなか引き取り手を見つけられないというおそれもあります。

ペットを飼うことは、その動物の一生に責任を持つことです。入手前に必ず動物の寿命を調べ、あなた自身のライフスタイルの変化(就職・転勤、結婚、出産・育児、入院や介護など)を考えたうえで、世話し続けることができるかを十分に検討する必要があります。

世話に必要な時間やスペース

ペットが寿命を迎えるまで、日常的な世話の時間やスペースを確保することも重要です。犬・猫の場合でも、毎日の掃除、散歩やグルーミングの時間に加え、定期的に動物病院で予防接種や検診を受ける必要があります。動物種・品種によってはトリミングサロンに連れて行きケアを行うことも求められます。

エキゾチックペットは種類によってその生態も様々です。生の野菜・果物、生餌や生肉を与える必要のある場合は、食べ残しから雑菌が繁殖してペットや飼い主が病気になるのを防ぐために、こまめなケージの掃除が必要となります。また、水生・水陸両生の場合、水の交換やカビ発生防止のための掃除などでも時間がかかります。複数頭を別々のケージや水槽で飼っている場合は、掃除や温度・湿度管理だけでもかなりの時間を確保する必要があるでしょう。

© David Lawson / WWF-UK
ヒョウモントカゲモドキは、乾燥による脱皮不全が起きやすく、皮が残ったままだとその部分が皮による絞扼で壊死してしまうこともあるため、湿度管理が必要。

飼育スペースについても注意が必要です。ミーアキャットやコツメカワウソなど哺乳類の中には、野生の生息環境では餌を探すために長い距離を移動するような動物もいます。このような動物を一般家庭で飼育する場合は、運動不足にさせないためにかなり広いスペースが必要になります。実際には、十分な広さを確保できないことも多く、飼育の高いハードルになります。まして、こうしたスペースを確保せずに飼育を始めることは、人にとってもペットにとっても幸せな結果にはなりません。

© Martin Harvey / WWF
ミーアキャットは活発で、屋内の生活だけでは運動不足となりがちです。また、穴掘りの習性があるため、本来の行動がとれる飼育環境を用意しましょう

動物の視点で考える

WWFジャパンの調査によると、ペットを飼っている・飼いたい理由の第2位には「動物に癒されるから」。第4位には、「動物と触れ合いたいから」という理由があがっていました※3。しかし、動物は必ずしも人と触れ合いたいと望んでいるわけではありません。特に野生動物は、人に触られることでストレスを感じてしまう動物種が多くいます。

人と生活リズムの異なる動物もたくさんいます。私たち人間は主に日中活動する昼行性ですが、明け方と夕方に活発になる薄明薄暮性の動物や夜が活動の時間帯である夜行性の動物がいます。飼い主の生活に合わせる個体も多くいますが、ハリネズミやフクロモモンガ、ワシミミズクなどは本来夜行性であり、ストレスをかけないためにも日中に人が過剰に触れることは避けた方がよい動物です。

© Ranjan Ramchandani / WWF

ペットとして飼われている動物の中には、本来は群れで暮らす種類もいます。ヨウムやフェネックなどの野生動物の場合は特にその習性を色濃く残しているため、1頭だけで飼育されること自体が大きな心理的負担になる可能性があります。動物種や個体によっては、飼い主を群れの一員と認識する場合もあるようですが、そうであっても飼い主が留守がちだったり、忙しさでペットの相手を十分できなかったりするとストレスとなります。

ペットを飼うということの責任を一言で言い表すと、動物がその動物らしく生きることをサポートすることだといえるかもしれません。エキゾチックペットの中には人間という他種の動物と同じ空間にいることに慣れていない動物種や個体がいることを忘れてはいけません。

© Martin Harvey / WWF

これまで見てきたように、エキゾチックペットを飼うには相当の費用と時間、そして覚悟が必要です。特に野生動物では、さらにハードルが上がり、飼い主として責任を果たすために考え、準備しなければならない点がたくさんあります。飼育を検討している動物の視点に立ち、あらかじめ生態を良く調べ、人と同じ空間に居ることが過度の負担にならないか、実際に飼育する環境を整えることは可能なのかを確認することは、飼い主となるための第一歩です。

人とペットの健康